未来の産婦人科医への期待とアドバイス

伊東市民病院 管理者・病院長    荒堀憲二

産婦人科医は未来の母と子の健康を守るという、夢があってやりがいのある職業です。若い皆さんの柔軟な発想で、この国の未来を託すべき子どもたちの誕生と育ちをサポートをして下さい。私たちの後に続いてくれるであろう皆さんへの大きな期待と、小さなアドバイスを認めました。

国際協力に関心のある方は、まず産婦人科を修めることを薦めます。

国際保健の現場では、産婦人科医であることは非常に大きな財産となります。もし母親が病気なら、子供の予防接種やエイズ対策など、数々の健康対策は一歩も進みません。だから途上国の保健対策では、母性の健康が優先されるのですが、途上国の女性の病気で最も重大なのは、妊娠、出産、中絶などの後遺症に関するものなので、産婦人科医であることはとても重要なのです。当院で研修した総合内科医も途上国に出向くために、産婦人科を再度研修中です。途上国やWHOで働きたい人は、まず産婦人科医になってから国際的に羽ばたくことを期待します。

また20世紀は科学が自然制覇をもくろんだ時代でしたが、遺伝子情報が解読されつつある今日、自然に対して科学は謙虚になるべきだといわれています。

例えば医学的適用のない帝王切開や安易な分娩誘発は自然に対する過剰介入かも知れません。予定の帝王切開では赤ちゃんは産道の常在菌をもらうことができないため、アレルギーや生活習慣病、がん、精神疾患などのいわゆるNCD発症のリスクを高めていると言われています。また誘発時の合成オキシトシンの投与は、分娩後の愛情ホルモンと言われる自然のオキシトシンの働きを弱める結果、母子の愛着行動を阻害する可能性があるとの報告があります。つまり、お産は自然の営みなので、自然に対する敬虔な態度が、より大切だということです。

ぜひ柔軟な知性を持った皆さんが、母子の健康とより良い関係構築に向けて、研究に実地臨床に活躍してほしいと思います。


ここで皆さんに私からのアドバイスを述べたいと思います。

新臨床研修制度になって、産婦人科医の労働環境がわかり、産婦人科を目指す医師が減ったと言われます。人間は安楽で快適な環境を望む動物ですからその気分はよく理解できます。しかし安楽な環境で自分を成長させることはなかなか難しいことではないでしょうかおこがましいようですが私の体験を少し述べさせて頂きます。

 私自身は、出先の上司の不運も重なって、3年目から6年目の4年間は、ほとんど1人で月30から40件の分娩と手術・外来を行っていました。まさに3K職場であったと思います。丹後半島の真冬にお産で起こされ、防寒靴を履いて病院に向かう夜は、正直言って辛く心細く、腹立たしい思いになることも幾度かでした。しかし、分娩も手術も全て自分の責任で行ったので、それなりに実力も度胸もつきました。手術は外科のドクターと行うので、外科の技術も学ぶことができました。ある恩師の先生から「回り道こそ自分を育てるんだよ」と言われたことは真実だったと思います。土日に大学で学位論文のデータを作り、日常は臨床の合間に地域で母子保健の講演もやり、小さな学会での症例発表やたまには論文発表もしました。こんなことができたのも「回り道」のおかげであったと思います。別の恩師の言葉「国を追われた難民が50歳から研究して教授になる。そんな人間がアメリカには幾らでもいる。限界を簡単に口にするものじゃない」は目からうろこでした。母子保健活動や思春期外来の開設もあって、国立公衆衛生院の母子保健学部に誘われました。そこで国際保健に触れたことが縁で、のちにケニアの産婦死亡低減プロジェクトに関与することになりました。しかしプロジェクト・リーダーとして組織をまとめる力の不足を知らされました。その時の経験がなければ、病院の事業管理者を受けることはなかったと思います。このように人生は一つが終わるとまた新しい展開始まるようです。だから逆説のようですが、困難があったほうが人生は楽しいのです。現在は大勢の医師で業務を分け合うことが楽で安心とされています。もちろん大勢の中で切磋琢磨することや、しっかりした指導が受けられる環境は重要です。しかし一人前の産婦人科医になるには、辛い時も苦しい時もあるはずです。困難や回り道を余儀なくされたらそれを幸いに感じ、自分の持てる力で困難を切り抜けたとき、人生の新しい地平が開けてくることを忘れないで頂きたいと思います。そして一日も早く、私たちと一緒にあるいは私たちに代わって、この国の母子を守るエキスパートとなって活躍して頂くことを期待しています。

夢プロジェクト「ぎふの産婦人科医の魅力」岐阜県、産婦人科医、医学生向けイメージ01
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