周産期医療に携わっている我々がもっとも多く治療している疾患は何かご存じでしょうか?双胎間輸血症候群や妊娠高血圧症候群など派手な疾患はいろいろあるのですが・・、もっとも多いのは切迫早産の患者さんなのです。
以前と比べるとその数はずいぶん減ってきていますが、現在の日本では一年に約4000人の新生児が生後一週間以内に亡くなってしまっているのです。そのうちの約7割を早産児が占めています。つまり、早産を防ぐことができれば、日本の周産期死亡をさらに減らすことができるのです! といってもそう簡単にいかないのが現実で、実は近年日本の早産率は徐々に増加してきているのが現状です。しかも、より重症の妊娠28週未満の早産率に至っては、25年間と比較して約2倍と急激に増加しているのです。非常に早い週数で早産してしまうと、新生児科の先生が何とか命を助けてくださっても、やはり合併症の頻度は通常よりも高くなってしまいます。それだけ早産は怖いので何とかその頻度を減らさないといけません。でも実は、日本の周産期死亡率は世界で最も低く、早産率に関しても世界でトップクラスに低いので、これ以上周産期死亡率、早産率を減らすのは一筋縄ではいきません。ですが現状に満足してしまっては、助けられない赤ちゃんがいるのも現実なのです。
どうしたらこれ以上早産を減らすことができるのでしょうか・・?その答えは簡単ではありません。実は早産に関してはまだわかっていないことがたくさんあって、そのリスクファクターや予防法など確立したものはないのです。というのも、早産には地域性があるとされており、各国、各地域によって頻度も違えばリスクファクターも異なります。なので、切迫早産の治療法に関しても未だに統一された方法は確立していません。こんなに患者さんが多い切迫早産なのに、世界的にもまだわからないことがたくさんあるのです。
そこで、岐阜県では現在『岐阜県早産研究会』を立ち上げ、どうしたら早産を予防できるのか、多施設共同研究を実施しています。我々が岐阜に根付いた早産予防を考える上でその頻度を正確に把握し、リスクファクターを知ることができれば、きっと早産を減らすことができ、より多くの新生児を救うことにつながるかもしれません。岐阜県の早産疫学を調査した第一研究は終了し、現在は岐阜県における早産のリスクファクターを解析する第二研究の途中まで進んでおります。これは全国的にも非常に先進的なことなのです。なぜ岐阜でそんなことができるのかというと、岐阜がこぢんまりとしているが故に岐阜大学を中心に全県の把握がしやすいからなのです。岐阜という地方の特性を生かせば、大都市よりも優位に研究を進めることもできるのです。
『早産』は古くから人類が闘ってきた強大な敵であり、『早産予防』は我々産婦人科医の永遠の夢なのです。おそらくどれだけ医学が発達したとしても、早産が無くなることはないでしょう。でもその夢に少しでも近づけるよう、岐阜県の産婦人科医が一次施設から三次施設まで一体となり努力をしているのです。