腹腔鏡手術の現状と未来の姿

岐阜大学医学部附属病院 成育医療・女性科 矢野 竜一朗

近年、婦人科腹腔鏡手術は著しい進化を遂げています。従来基本とされた開腹手術は、殆ど施行されていないのが現状です。腹腔鏡手術は開腹手術と比べ手術侵襲が少なく、創部が小さいのは勿論のこと、術野を拡大視することでより精密な手術を可能とする利点もあります。このため開腹手術自体が困難な症例にも良い適応となり得ます。さすがに産科における帝王切開術を腹腔鏡で…とはなりませんが、摘出標本の回収をできるだけ経腟的に行うことで極限まで皮膚切開を小さくする腹腔鏡手術は、もはや婦人科医にとって必要不可欠な手技となっているのです。
最もスタンダードな術式としては、腹腔鏡下子宮全摘術が挙げられます。内視鏡手術を積極的に行う婦人科医にとって当該手術は技術認定医への登竜門となるのですが、巨大な子宮に対しても5㎜径のトロッカーを4本、あるいは5㎜径のトロッカーを2本と2㎜径トロッカー2本を腹部に穿刺するだけで、子宮を腟から細切回収し体外に摘出することができるため、患者さんの満足感はかなり大きいようです。また長径100㎜以上の卵巣腫瘍に対しては、5㎜径のトロッカー3本のみで摘出することができます。自身の知恵と技術により「手術」を「奇術」に変えることが可能である、これが婦人科腹腔鏡手術の最大の魅力なのでは、と思います。
残念ながら日本で産婦人科に携わる医師は近年減少の一途を辿っていることは紛れもない事実です。産婦人科業務の訴訟リスクは極めて高く、当直・夜間の分娩・手術などで人間的な生活ができません。加えて薄給であることにより、医学生は必然的に産婦人科を敬遠せざるを得ないのです。結果的に学生は国家試験さえ受かれば良い、すなわち産婦人科をおざなりにする姿勢となり、それが現場の産婦人科医のモチベーションを低下させ、多忙を理由に臨床教育を放棄し、それを目の当たりにした学生は更に敬遠するという悪循環を生み出しているのでは、と考えます。
産婦人科医が少ない中で、特に婦人科腹腔鏡手術を行う医師は天然記念物の如く希少な存在となりつつあります。そのハードルは決して低くはないのですが、極端に高くもないと自分は考えます。例えば育児などで勤務時間に制限を設けざるを得ない女性医師にとって、腹腔鏡手術を行うことは自分の技量を生かし時間内に業務を完遂する絶好の機会となるのでは、と考えます。僅か1㎜の違いにも妥協を許さない、確固たる意志・信念を持ったプロフェッショナルが数多く集い、来るべく腹腔鏡手術の全盛期を迎えることができたら、と願ってやみません。

夢プロジェクト「ぎふの産婦人科医の魅力」岐阜県、産婦人科医、医学生向けイメージ01
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