ARTとはassisted reproductive
technologyの略でいわゆる体外受精・胚移植、顕微授精などの難治性不妊症に対する高度な生殖医療技術を指します。1978年にイギリスで世界初の体外受精の妊娠・分娩が報告され、わが国では1982年に東北大学で初の成功例が報告され、2012年には3万8千人の子供がARTで生まれ、実に出生児の27人に1人という割合まで増加しております。生殖医療技術は創生期と比較し格段に進歩して、従来では考えられなかった無精子症などの難治症例も治療対象に入ってきています。岐阜県では1992年に岐阜大学附属病院で初の体外受精が成功して以来、現在では県内9施設がART登録施設となっており日本生殖医学会認定の生殖医療専門医が6名在籍しており岐阜県の生殖医療を担っています。
不妊治療に対する経済的負担を軽減し少子高齢化に歯止めをかけるため、岐阜県および各市町村レベルで健康保険適応外であるARTを対象とした特定不妊治療助成事業が創設され、現在では市町村においては一般不妊治療に拡張され、さらに2015年度より岐阜県で男性不妊治療助成事業および人工授精の助成事業補助金が新規事業としてスタートしました。産婦人科の医師が岐阜県の特定治療支援事業検討会の委員として参加し、行政とタイアップして不妊に悩む県民への支援強化を図っています。
県内の研究会活動としては岐阜大学病院在職中に岐阜ART研究会を立ち上げ、松波総合病院の松波和寿先生の御好意で病院の会議室を使用し小規模の研究会を開いたのがきっかけで、現在では岐阜ARTセミナーとして年一回著名な先生方をお招きしホテルの会議室で近隣だけでなく東海地方より大勢の参加者を集める会にまで発展いたしました。岐阜ARTセミナーは2015年で第13回を迎え、今回も全国より4名の生殖医療のエキスパートの先生方に来岐していただき活発な討論を行う予定です。また岐阜大学成育女性科の主催にて生殖医療部門の研究会も毎年開かれ、こちらも著名な先生方に特別講演をしていただいて貴重な学習の場になっております。
生殖医療の魅力は他の医療行為と全く異なり、まさに生命の誕生にかかわる医療であることです。少子高齢化が深刻さを増し社会的危機が叫ばれる中、生殖医療の果たす役割が大きくなってきています。2015年3月に日本産婦人科学会は従来の着床前診断の枠組みを広げ、体外受精を3回以上不成功となった患者や原因不明の流産を2回以上繰り返した患者を対象として受精卵の染色体異常を調べ、正常の受精卵のみを移植する「着床前スクリーニング」の臨床研究を承認しました。女性の社会進出など様々な理由による女性の晩婚化や不妊を主訴とした初診年齢の上昇に伴う妊娠率の低下が著しい中、可能な限り妊娠率、生産率を向上させ、少子化の歯止めに貢献できるよう、生殖医療に従事する若い人材を求めています。